牡丹(ぼたん)
ぼたん切て気のおとろひしゆふべ哉 与謝蕪村
蕪村には牡丹の佳句が少なからずあります。〈牡丹散て打重りぬ二三片〉をはじめとして〈金屏のかくやくとして牡丹かな〉〈閻王の口や牡丹を吐んとす〉など。幻想的な句も多い蕪村ですが、牡丹の句の中でも、閻王の句などはまさにその部類です。牡丹は初夏を鮮やかに彩る花です。それゆえ牡丹を詠んだ句は数限りなく存在し、また増え続けることでしょう。
さて、この句ですが、丹精こめた牡丹が咲き、その牡丹に、牡丹の放つ妖気に気持ちがとらわれ続けている。そんな一日を過ごして、思い切ってその牡丹を切る。そのとたんに、張りつめていた蕪村の気もゆるんでしまった、というのでしょう。牡丹にはそんな力が確かにあるように思います。「おとろひし」は、蕪村の造語ではないか(正しくは、おとろへし)と言われています。
ボタンはキンポウゲ科の落葉低木で中国が原産。日本へは千余年前に仏教と相前後して渡来しました。平安時代には薬用として寺院に植えられたといわれています。「枕草子」に「ほうたん」と出たのが最初とされています。
ボタンの丈は1メートル余、葉は淡緑色の羽状複葉で新しく伸びた枝の先に八花弁の大輪の花を咲かせる。花の直径は20センチにも及ぶ。花季は5月上旬。原種は紅紫色だが、白、紫、紅、黄と多彩。
薬用になるのは、根皮である。秋に根を堀り、水洗いしてから、木槌で軽くたたき割れ目から硬い木部を取り除く、それを日干しにして5センチ程度に切った生薬を「牡丹皮」という。
牡丹皮は婦人科処方に重用される。駆瘀血の目的で用いられる。
代表処方としては桂枝茯苓丸